健二がゆく〜志士迷走記録〜

Kenji, was er nach der Rückkehr in die Heimat als Fußballtrainer macht, wo die Sonne aufgeht

難しいことを頑張るのではなく、簡単なことで成功する!

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仕掛けることをためらう日本人選手たち

 

「仕掛ける」というと、多くの方が「攻撃」でのことを思い浮かべるかも知れない。もちろんサッカーにはその場面もあるが、ここでは「仕掛ける守備」について書いてみたい。

 

日本では、相手チームがボールを持っているときに、守備をするチームはただ単純にボール保持者の出方を待っているだけにしか見えない。うかつに飛び込めばかわされるため、ある程度近くまでは寄るが、そこからは何もしない。ただひたすら受動的に対応し、ボール保持者に付いて回り、文字通り右往左往するだけ。

 

この場面から起こりうることを選手たちが知らないから、何も手を出さないようにしているとしか私の目には映らない。

つまり、この部分(守備)の物語を知らない。起こりうることを知っていて、自分たちに有利になる状況、次に自分たちが欲しい場面の作り方は、「守備戦術」である。

 

このシーンでは守備戦術が抜け落ちているため、うかつに近寄りあっさりとかわされ、フィールド脇からは監督の叱咤激励(?)が飛び、ファン(親たち)の間からは深いため息が漏れる。この「負の連鎖」とも言えるネガティブな反応を恐れ、ただひたすらボールを見つめるだけに徹する姿が日本では横行している。

残念ながら

 

現在の日本は、守備戦術の後進国

 

であると言わざるを得ない。

 

現時点での世界チャンピオンであり、FIFA世界ランキングでも世界1位(日本は44位)のドイツに話を移そう。

ドイツでも5部、6部リーグを境にして、そのリーグから下は皆(地域によっても違うが、12部くらいまでリーグは存在)、マンツーマンディフェンスだ。つまり、大半のドイツ人はマンツーマンしか、知らない。『えっ?」と思われる方も多いことだろう。

ドイツ代表やブンデスリーガのチームを見ていると、ドイツのクラブは草の根から皆、さらに子供たちから、モダンなゾーンディフェンスでプレーしているかのような印象を受けてしまいがちだが、現実には違っている。

 

理由は、簡単だ。ゾーンディフェンスを指導できる指導者がいない。私が14年半住んだ市内にある、とあるクラブ(9部リーグ)で起きた公式戦での出来事がいい例になると思う。

ゾーンディフェンスを良く知らない監督さんが、彼のチームを前半「ゾーンディフェンスもどき」でプレーさせた。アウェイとして戦う相手チームは、強いて言えばやや劣る相手だった。にもかかわらず、前半を終えて0対3とアウェイのチームが、試合をリードした。

 

私はその監督さんの技量を見るために観戦していたので、前半だけを見て家に帰った。あとで、ホームチームの選手に、その試合の顛末について話を聞く機会があった。

ハーフタイムは更衣室で、揉めに揉めたそうだ。選手たちは一丸となって、監督へ後半は元々のリベロ・システムへ戻すことを直訴し、監督もそれを受け入れざるを得ず、後半は前半に行ったゾーンディフェンスを捨てマンツーマンで戦い、同点まで漕ぎ着けたとのことだった。

 

ここで言いたいのは、もちろんゾーンディフェンスが欠陥を持った守備戦術だとか、一般のサッカー選手には難し過ぎる戦術であるとかではない。

この試合での問題は、この監督さんがゾーンディフェンスはその名の通り、フォーバックであれば横幅を単純に4人のディフェンダーで分配して守るだけのものと、勘違いしていたことに起因する。4人のディフェンダーはそれぞれ、間隔を保ちながら真っ直ぐに後退し、相手FWは二人のディフェンダーの隙間を突いて裏へ飛び出し得点していた。

 

誰も語らないが、ドイツでも(残念なことに日本でも)問題なのは、例え指導者がドイツサッカー協会からFußballlehler-Lizenz(S級ライセンス)を取得していても、ゾーンディフェンスを知らない指導者が存在することだ。私はこの目で、何人かの実例を見た。

ただ、「仕方ない」とも言える。それは彼らが指導者ライセンスを取得した時代には、現在のゾーンディフェンスが存在していなかったからだ。当然指導者養成のプログラムにも、ゾーンディフェンスは入っていなかった。ゾーンディフェンスの概念だけは、あったはずだが。

 

私自身も山雅サッカークラブ(現在の松本山雅FC)で、当時の3部リーグに当たる「北信越リーグ」でプレーしていたが、当時はやはりマンツーマンディフェンスだった。もっとはっきり言えば、チームの中には「スウィーパー」が存在した。

つまり現役時代(ドイツも含め)にゾーンディフェンスでプレーした経験を、私は1秒たりとも持っていない。

決して自慢話をしたいわけではないが、ゾーンディフェンスを指導できるかどうか?は、ひとえにライセンスを取得した後、それだけに満足せず、自分から湧く興味でサッカーを追い続け、新しいサッカーについての理解を深めるよう、常に努力し続けて来たかどうか?が問われることになると考えている。

 

話を一番最初の日本での試合中のシーンへ戻すと、むやみやたらに、ともかくボール保持者へ、寄せればいいというものではもちろんない。早く寄せても下手に詰めれば、簡単に抜かれてしまう。

第1ディフェンダードリブラーの進行方向を限定することなく身勝手なことをすれば、第2ディフェンダー以下後ろに居る多くの味方は反対サイドへ寄せるなど、もう一度ポジションを取り直さなければならない、新しく対応を迫られる状況となってしまう。

そんなことが度重なれば無駄走りが多くなり、まさに「骨折り損のくたびれ儲け」だ。肝心な場面で、必要なエネルギーを持ち合わせず、ゴールチャンスを潰してみたり、ピンチに何の抵抗もできないまま失点を許してしまいかねない。

 

このような場面で使ってもらいたい、そして有効なのが、『「ボールを重視した」ゾーンディフェンス』だ。私は2004年にドイツサッカー協会指導強化ビデオシリーズ「Modernes Verteidigen」(ビデオ3巻、現在はDVD3枚)を翻訳し、その後当時の自分のチームであったU17で試し、その後も引き受けたチームで試行錯誤しながらゾーンディフェンスを追求し続けて来た。今振り返ってみると、翻訳したビデオの中の字幕やアナウンサーの台詞、その行間を読む作業だったとも言える。

 

サッカークリニック12月号(11月6日発売予定)の守備の特集に、サイドでの1対1の守備戦術について「サイドで「1対1」の数的同数なら、相手をボールごとタッチラインで挟む」を掲載させてもらえるので、是非皆さんに購入していただき、内容に目を通してもらえたら嬉しい。写真とイラストを使い、わかりやすく説明するようにまとめたつもりである。

基本中の基本となる個人戦術だが、日本では行われていないやり方で、導入においては戸惑いもあるかも知れないが、自分の指導しているチームで是非試してみてもらいたい。

 

もし読者の皆さんが指導しているチームや選手たちで、いい手応えがあったら、是非この下にあるコメント欄へ気軽に感想を書き込んでもらいたい。よろしくお願いします。

続く1月号には、そこからの発展形となる「サイドでの1対2の守備のグループ戦術」を掲載してもらえる予定。

 

サッカークリニック2回に渡って説明する内容は、能動的な守備、つまり最初に書いた「仕掛ける守備」である。能動的と言っても、あからさまに体力に物を言わせて、アタックを繰り返すものではない。むしろその逆で、机の下で秘密裏に事(ボール奪取までの物語)を進め、相手チームを陥れ、ボールを効率的に奪おうというものだ。 つまり、それは

 

「攻撃はゴールをアタック、守備はボールをアタック!」

 

ということであり、『「ボールを重視した」ゾーンディフェンス』のモットーは、

 

「難しいことを頑張るのではなく、簡単なことで成功する!」

 

である。

 

どっちへ行くのか?わからないボール保持者へ対応するのは、難しい。要は、どちらかにしか行けないようにしてしまえばいいわけである。

そこで、ボールを持っている相手FWを意図した場所へ誘導する「間合い」と「角度」と「後退」、「個人の守備戦術における三種の神器」をマスターすることが大切となる。

最初はこの相手FWと自分(DF)をマグネットの同極同士に見立てて、マグネットの反発する力を利用して、非接触で相手FWの方向とスピードを制御することは難しいかも知れない。しかし練習を積めば、誰にでもマスターできることである。

ドイツで私が指導したチームでは、U13からこの守備の仕方を選手たちへ伝えたが、彼らもみんなマスターできている。


紹介が遅くなったが、写真は昨年講師をシリーズでさせてもらったINAC多摩川主催の指導者講習会コーチングアドベンチャー第7回における、実技での一コマである。フラットに並ぶフォーバックの陣形の確認を行っている。左から4人が攻撃側、続く4人がディフェンダーだ。

この日のテーマは最終回として「守備のチーム戦術」だったが、私はこの日初めて日本人によるゾーンディフェンスを見させてもらった。

ドイツでは見慣れた光景だったが、私にとってはとても新鮮な光景で、今も世田谷公園の背景と共に、このシーンの記憶は鮮やかに脳裏に焼き付いている。ディフェンダー役の選手たちが、皆さん『心からサッカーを楽しんでいる』と感じたことと一緒に。

 

ドイツのとあるクラブにいたときに、シーズンの終わりにクラブのお祭り的な行事として、私の指導していたU19が2軍チーム(成人)と対戦したことがある。

2軍チームはマンツーマンマークのディフェンス、U19は『「ボールを重視した」ゾーンディフェンス』。結果は5対2で、我がU19が勝利を収めた。

 

年少のチームが優位に試合を進め勝利するということは、やはりゾーンディフェンスがマンツーマンマークよりも優れた戦術であることの証であると、試合を通じて確信を得た。

U19の選手たちがシャワーを浴びているときに、一人の成人チームの選手が両手にマース・ビーア(1リットル入りのジョッキ)を持って、笑顔で更衣室へ乱入して来た。「お前らすごいよ!いいサッカーしてるなぁ。驚いたよ!これ、みんなで飲めよ!俺からのおごりだ!」と言いながら。